外科 SURGERY

診療科 <外科>

概要・特色

当院は広島県県北の唯一の中規模総合病院として、『地域の皆さまから信頼され親しまれる病院を目指します。』という基本理念のもと、日々診療提供いたしております。外科においては、さらに、『皆さまに安心して受けていただける質の高い最良の医療』を提供できるよう専心精進いたしております。治療に全精力を傾け、患者様としっかり向き合うことが、患者様の信頼に応えることである、と考えております。

診断のための検査機器に関しては、平成26年12月に稼働開始となったPET-CTをはじめ、最新のCT、MRI等も順次導入されております。また県北で唯一、放射線治療専門医による放射線治療も行われています。

当科には、現在9名の外科医が勤務しています。大学病院を始め都市部のいわゆる大病院では外科も専門医制での診療が当たり前となって参りましたが、中規模病院の当院では限られたスタッフでもあり、なかなか大病院のような専門医制での診療提供は叶いませんでした。しかし、広島大学病院の関連教室の多大なるご援助のおかげもあり、現在は、消化器外科(上部消化管、下部消化管、肝・胆・膵臓外科)、乳腺外科、呼吸器外科に分化してそれぞれを分担した外科医が担当しています。基本的となる外科経験を充分積んだうえで、専門に分かれておりますことはもちろんであります。また、より高度な医療が必要な場合には、関連教室とも密に連携を取りながら、専門医の招聘、紹介等々で柔軟な対応をいたしております。

当院は、がん診療拠点病院に指定されておりますので、悪性腫瘍に対しての治療を数多く行っております。悪性腫瘍に対しては、外科治療はもちろんのこと、化学療法、放射線療法を組み合わせた集学的治療を実践するとともに、緩和ケアチームとも悪性腫瘍と診断された時点から密に連携を取りながら心と体の両面からチームでのサポートを行っています。なお、化学療法は、平成26年4月にリニューアルした外来化学療法室において、原則外来通院で行っています。

その一方で、地域性から、一般的な外科的疾患として、良性疾患(=胆のう結石症、ヘルニア、痔疾患、下肢静脈瘤、等々)の手術も数多く行っています。また救急医療にも対応いたしております。年間の緊急手術件数は110件程度です。

さらに、当院では心臓血管外科の手術は行えませんが、平成26年4月より毎月1回、広島市立安佐市民病院・心臓血管外科主任部長・片山 暁先生に外来診療応援にお越しいただいております。心臓血管外科手術・術後経過観察、および紹介初診患者様の診察を依頼しております。

最後に、治療方針決定に関しては十分に相談させていただき、ご納得いただいた上での治療を行っておりますし、セカンドオピニオン(他院での病状・治療説明を求めること)もご遠慮なくお申し出いただければと思います。

※日頃より、かかりつけ医をお持ちいただきますと、当科紹介時には、『地域医療連携室』をご利用いただくことで、ほぼ待ち時間なしで診させていただくシステムもございます。ぜひご利用ください。

対象疾患 1.上部消化管

食道疾患

食道癌の治療法は食道癌治療ガイドラインに従い、(1)内視鏡的治療、(2)手術治療、(3)放射線治療、(4)抗がん剤治療(化学療法)などの単独治療や組み合わせた治療を行ないます。
しかし、患者さまの病状や全身状態によっては標準治療が困難な場合もあり、消化器内科、放射線科、関連施設と連携をとりながら、適切な治療が提供できるように努力しています。

胃疾患

胃疾患の主な手術対象は胃癌(年間50例前後)で、それ以外に胃潰瘍(穿孔など)および胃粘膜下腫瘍を治療しております。

胃癌および胃粘膜下腫瘍の治療法の選択に際しては胃癌学会から公開された胃癌治療ガイドラインを基準とし、消化器内科医、放射線科医などと連携して患者さまの病態の即した最適な治療法を選択するようにしております。

早期胃癌に対しては、ご希望に応じて腹腔鏡を用いた手術も行っております。入院後の治療は統一されたクリニカルパス(標準化された患者さまのスケジュールを表にまとめたもの)に基づいて行っております。

対象疾患 2.下部消化管

当院では大腸がんに対し、年間60~70症例程度の手術を行っています。治療方針は大腸癌取り扱い規約および大腸癌治療ガイドラインに準拠して決定します。
2008年から腹腔鏡手術を導入し、当初、早期がん症例に対してのみ施行していましたが、現在は進行がん症例にも適応を拡大し、盲腸~上行結腸病変、S状結腸~直腸病変に対して腹腔鏡手術を施行しています(全体の20~35%)。

下部直腸がんの患者様に対しては局所再発の制御を目的として、術前化学放射線療法も導入しています。メリット、デメリットを説明させて頂いた上で希望される患者様に対し、手術治療に併用させて頂いております。

人工肛門を造設された患者様に対しては認定看護師(WOCナース)によるケアや相談ができるよう、毎週水曜日にストーマ外来を設けています。

当院では年間数名(5%前後)、大腸がんによる大腸閉塞で救急搬送される患者様がいらっしゃいます。従来は緊急手術を行い、人工肛門造設が一般的でありました。2012年1月から大腸ステントが保険診療として認可され、当院でも2014年10月から閉塞性大腸がんの患者様に対し、消化器内科と協力して、大腸ステントを積極的に留置しています。留置した後、2~3週間後に手術を行う、BTS (bridge to surgery)を導入し、人工肛門を回避し短期的には良好な経過を得られています。長期成績については今後の症例蓄積を重ねる必要がありますが、閉塞性大腸がんに対して非常に有効な治療法と考えています。

対象疾患 3.肝臓・胆道・膵臓疾患

肝臓、胆道(胆管・胆嚢・十二指腸乳頭部)、膵臓の良性・悪性疾患の治療をチーム医療体制で専門的に取り扱っています。肝胆膵領域のがん手術に関しての基本方針はガイドラインに沿ってそれぞれの進行度に応じきめ細かな治療をするようにしています。難治癌に対しても積極的に手術を行い、根治性を目指すと同時にできるだけ長期の延命を得るように集学的治療を実践しています。また、肝胆膵領域のがんに対する治療では、外科治療ばかりでなく内科的な治療や放射線治療、超音波やCT、内視鏡などを使った治療を組み合わせて行う場合が少なくありません。当院では、それぞれの専門家に連絡をとりあって治療を行うようにしております。

当科で扱う主な肝臓・胆道・膵臓疾患

肝 肝癌(肝細胞癌、肝内胆管癌、転移性肝癌)、肝嚢胞、その他肝腫瘍
胆道 胆嚢癌、胆管癌、十二指腸乳頭部癌、胆石(胆嚢、胆管)、胆嚢炎
膵 膵癌、膵腫瘍(IPMN、嚢胞性腫瘍、神経内分泌腫瘍)、その他膵腫瘍

対象疾患 4.乳腺疾患

平成21年より乳腺外来を開設し、乳腺診療に特化した診察を地域に先駆けて行ってきました。
当院は県が取り組んでいる乳がん医療ネットワークに参加しています。県が指定する検診実施施設群、精密診断施設群、周術期治療施設群、フォローアップ治療施設群すべてに認定されており、この備北地方の乳がん患者さんを検診から診断、手術、術後フォローに至るまでを一貫して担当することができる病院です。
『皆さまに安心して受けていただける質の高い最良の医療』の提供をこの県北の地でも実施できるようにしております。

当院の乳がんの特徴

医療圏は広く、三次や庄原だけでなく安芸高田、世羅、府中、神石高原町、島根県、岡山県などの一部からも来て頂いているため、乳がんの手術件数はここ最近では年間50~60例と多くの症例を施行しております。
下図は平成12年~29年までの当院の乳癌手術件数とその病期を示しております。
乳癌検診の普及や診断能力の向上もあり、70%程度の方が0期やⅠ期などの超早期や早期の状態で発見されております。

下図は平成12年~29年までの当院の乳癌患者数の年齢別件数です。 40代後半から70代前半の方の乳癌罹患数が多いのがわかります。

乳がんの治療について

センチネルリンパ節生検

乳癌は乳腺の中のリンパの流れにのってリンパ節に転移します。
リンパ節はつながっている隣のリンパ節に次々と転移していきます。
乳腺の中のリンパの流れは一定の方向に流れており、乳腺から流出したリンパ液が一番最初に入り込むリンパ節は決まっています。このリンパ節をセンチネルリンパ節と言います。このリンパ節に転移がなければ、それより遠いリンパ節には転移はあり得ないことになりますので、腋窩リンパ節郭清が省略できる可能性があります。
センチネルリンパ節の検出法として色素法とラジオアイソトープ法の併用法が推奨されており、当院もこの併用法を実施しております。

乳癌の手術療法

当院では希望する方に対しては、可能な限り乳房温存術を行っております。また従来の乳房温存術で変形の目立ちが予想される場合は、周囲の脂肪や乳腺組織をよせて、整容性のよい満足のいく乳房を形成しております。
乳房温存術が適応とならない大きいしこりでも、術前化学療法といわれる治療で,しこりを小さくして乳房温存術をおこなうこともしております。
近年全国的には乳房全摘術後の乳房再建も増えており、当院でも希望のある方は行っております。

乳癌術後治療

乳癌の術後治療は、日本では乳癌診療ガイドラインに沿った治療が行われており、当院もこれに則った治療を行っております。
癌より採取された組織を免疫染色といった特殊な染色を行うことによって、乳癌を5つのサブタイプに分け、それぞれのサブタイプによって、ホルモン療法、化学療法、分子標的薬の使い分けを行っております。

当院での診療は乳癌に専門性をもった医師だけでなく、乳がん看護、がん化学療法看護、がん放射線療法看護、緩和ケアなどの認定看護師や、日本乳がん検診精度管理中央機構認定の放射線技師や超音波技師など、それぞれがしっかりした専門性の高い知識をもってチームとして医療を提供しております。
乳腺疾患に関する診療だけでなく検診(マンモグラフィー・超音波併用検診)も行っておりますので、乳房に気になることがある方は気軽に受診をお願いします。

対象疾患 5.呼吸器疾患

概要

増加している肺がんを始めとする胸部疾患の診療を備北地域で完結できるように、国指定のがん診療拠点病院である当院でも2013年から呼吸器外科診療を本格的に開始しました。
常勤の呼吸器外科専門医が赴任し、それまでは他院に依頼していた呼吸器外科手術を当院でいつでも受けていただけるようになりました。

対象疾患

食道、心臓、乳腺を除く胸部疾患、具体的には肺、縦隔、気管・気管支、横隔膜、胸膜、胸壁の疾患の外科手術を行っています。
当院はがん診療拠点病院ですが、肺悪性腫瘍、縦隔腫瘍のような腫瘍だけでなく、気胸、膿胸、肺感染症など胸部疾患全般の手術も行っています。
(一部の特殊な小児疾患は他院の小児外科などに紹介させていただくことがあります。)

手術症例数

呼吸器外科が開設された2013年は年間43例(原発性肺がん22例)、2014年は年間64例(原発性肺がん32例)、2015年は約80例(原発性肺がん約50例)と手術症例数は増加しています。

当院の診療圏(備北地域)は人口が少なく、都市部の大病院に比べれば症例数は少ないですが、その分ひとりひとりの患者さんに対して丁寧な診療を心がけています。

一部の大病院のように、手術だけ行って退院後に何かあった際にも全く対応しないようなことはせず、当院で手術を受けられた患者さんに対しては何かあった際には可能な限り対応いたします。

開設されてまだ3年経っておらず、肺がん術後5年生存率はまだ算出できていません。

診療体制

呼吸器グループ

肺がんはほぼ全症例を呼吸器グループ(呼吸器内科、呼吸器外科、放射線診断科、放射線治療科)で相談して手術を始めとする治療方針を決定しています(キャンサーボード)。
腫瘍以外の感染症、気胸症例についても呼吸器内科、呼吸器外科、放射線科で密に連携して診療を行い、適切な医療を提供するように心がけています。

手術中、手術前後の体制 ~少しでも安全な手術を目指して~

胸部の手術は決して安全とはいえず、特に持病をお持ちのご高齢の方は危険性がそれなりにあります。

100%安全とは断言できませんが、少しでも安全にするために、心臓や脳の持病がある患者さんは循環器内科や脳神経外科と、糖尿病がある患者さんは糖尿病内分泌内科と連携して診療しています。
その他の持病がある患者さんも各専門診療科の協力を仰ぎ、できる限り安全な手術および術後管理を提供できるようにしています。

また麻酔を始めとする周術期の管理は麻酔科専門医が担当し、危険性の高い手術の術後や万が一大きな合併症を発症した場合は、集中治療専門医の協力の元に合併症予防や回復を目指します。

胸部疾患の患者さんはご高齢な方が多く、喫煙をされていた方も多いので、リハビリテーション科に依頼して術前術後の呼吸リハビリテーションを積極的に行ない、肺炎や呼吸不全などの肺合併症を減らす工夫をしています。

当院は大病院ではないですが、ほぼ全ての診療科が存在する総合病院で様々な合併症の予防・対応が可能です。一方で(大病院でないので)各診療科、各部署の垣根が低く、いつでも相談・対応可能なメリットがあります。

2013年4月~2015年12月までの呼吸器外科手術全188例中、手術関連死亡が1例、在院死が1例ありました。

トピックス

三次市では低線量CTによる肺がん検診が始まり、CT検診で早期発見される肺がん患者さんが増えています。
2014年末から当地域で唯一のPET検査が当院で導入されました。
肺がんを始めとする胸部悪性腫瘍の患者さんにはPET検査を行うことが多く、それまで広島市内や三原に受けに行かれてたのが、当院で受けていただけるようになりました。

市立三次中央病院に呼吸器外科が存在する意義

備北地域では高齢化により肺がんや肺感染症など呼吸器疾患の患者さんが増えています。
肺がんは手術を受け退院したらその病院と縁が切れる訳でなく、定期検査は必須で患者さんによっては追加治療が必要になります。
その際に手術で切除した肺の標本や手術所見が治療方針や内容を決めるのに大変重要になることがあります。肺がん以外の疾患でも同様です。

したがって呼吸器外科で行う手術と、呼吸器内科や放射線治療科で行う手術以外の治療は同じ病院で受けるのが理想です。
元気な時は1時間以上かかる広島市内方面への移動や通院もそれほど苦にならないかもしれませんが、胸部の手術後は若い人であっても大変なようです。
ましてやご年配の患者さんにとっては遠方への頻回の通院はかなり負担になると考えます。

また胸の手術では元気に退院された後も様々な症状(傷の痛みが続く、息が苦しくなる、など)が出現することがあり、そのような際に手術を受けた遠方の病院に行くのは大変なことです。
当地域の胸部疾患の患者さんにそのような負担をかけないために、備北地域、中山間地域に存在する当院で診断・治療が完結できるように努力して参りますので今後もよろしくお願い申し上げます。

対象疾患 6.慢性腎臓病に対する透析外科

慢性腎臓病の患者様とご家族に腎代替療法(透析、腎移植)について説明し、納得した治療法を選択していただきます。当院では透析を行っていますが、先行的腎移植を希望される場合には、広島大学病院や県立広島病院などへ紹介させていただいています。

血液透析(HD)

血液透析を行うためには、バスキュラーアクセス(シャント)の作製が必要です。自己血管による動脈-静脈吻合が基本ですが、シャント作製に適した静脈がない場合も多く、人工血管による動脈-静脈吻合を行う症例も増えています。また、ADLが著しく低下していたり、心機能不良な患者様では、長期間使用可能なカテーテルを留置したり、動脈の表在化を行っています。

シャントトラブルとして頻度の多い狭窄と血栓性閉塞の治療は、まず経皮経管的血管形成術(PTA)を行いますが、短期間に繰り返す症例ではシャントの再建術を検討します。シャント感染(特に、人工血管の感染)や破裂の危険性の高いシャント瘤には再建術が必要です。 シャントの自己管理は大切で、毎日、見て・聞いて・触って、異常を早期に発見できるように指導しています。一度作ったシャントが長く使えるように維持管理を行っています。

腹膜透析(PD)

腹膜透析を行うためには、腹膜透析カテーテル留置術が必要です。段階的導入法(SMAP法)を行うことが多いです。これは、数か月以内に腹膜透析を開始する必要があると判断した段階で、腹膜透析カテーテルを腹腔内に留置し、外へ出さないで皮下に埋め込んでおきます。いざ透析となった時に、出口を作製し透析を開始します。

この方法ですと、入院期間の短縮やカテーテルトラブルを減少させることができます。また、精神的にゆとりをもって腹膜透析に臨むことができます。
カテーテル出口部の位置は、カテーテルケアが容易に行えること、出口部感染のリスクを減少させる観点からも重要となります。以前は下腹部出口のみ作製していましたが、現在では、セミロングカテーテルを使って上腹部出口の症例が増えています。

出口部感染を予防し早期に治療するように努めていますが、皮下トンネル感染に進展した場合には外科的対応が必要です。トンネル感染になると抗生物質の投与のみでは改善は期待できず、出口変更術を行います。しかし、感染が腹膜カフ近くまで波及していればカテーテルを抜去し、新たなカテーテルを反対側から入れ替えになります。
カテーテルトラブルとして位置異常や閉塞による透析液の注排液不良がありますが、腹腔鏡下に位置修復術や閉塞解除を行っています。

末期腎不全患者様が安心して透析が開始でき、安定した透析が続けられように最善を尽くしています。